『FOR REAL』は映画である必要があるのか問題

『FOR REAL』2017年版を観てきた…だよー。
(※以下の文章はネタバレになるかもしれませんし、ならないかもしれません。ご了承ください)

 

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 今季のベイスターズを観続けたファンは、特に『FOR REAL』に期待していたのではないでしょうか。「あのときのベンチ裏はどうだったのか」「あの選手はあのときどう思っていたのか」、そして、「どういう雰囲気で日本シリーズを戦っていたのか」。

 映画にしろ、小説にしろ、もちろん、野球観戦もそうなのだと思いますが、期待しすぎると失望する。期待をせずに観に行くと「思ったよりよかった」。こういう感想になりがちなのは世の常なのではないでしょうか。

 私はちょっと期待しすぎたのかもしれません。暗黒時代を経て、誰がここまでチームや選手が成長すると予想できたでしょうか。雨の開幕戦は2-9で惨敗。開幕3戦目は延長で満塁本塁打を打たれてサヨナラ負け。そこから、梶谷選手や桑原選手のグラスラ。3試合連続サヨナラ勝ちなどがあって、CS進出。雨の甲子園と雨の広島を勝ち上がって日本シリーズ進出。0勝3敗からの2連勝。6戦目の9回裏まではリードしていたのだけど、元横浜・内川選手に本塁打を打たれて同点。延長のクロスプレーでサヨナラ負け。今季をぎゅっと縮めて書こうとしても、これだけの話が出てくるのです。

 さらに『FOR REAL』はベンチ裏の様子を映し出し、各選手、そしてチーム全体のモチベーションやテンションを時系列で切り取るのが特徴なわけです。コーチの仕事ぶりまでも描き出しています。

 これらを約100分でまとめようとしているのですよ。よくよく考えたら、そりゃあ無茶だわ。

「なぜ、あの選手を取り上げなかった」「なぜ、あのシーンにもっと焦点を当てなかった」「もっと長時間の上映ができたのではないか」。コアなファンであればあるほど、不満が出てくるかもしれません。今季過ごしているだけで、スポーツ紙などの各情報から、勝手に脳内補完をしていったファンも少なくないはず。今季のベイスターズをリアルに追いかければ追いかけるほど、この1年間は映画以上の壮大な物語になってしまう…。

 約100分の上映時間。私はこれで丁度よかったのだと思います。ただ、今年はいろいろありすぎたってだけなんだと思います。お客さんの中にはベイファンでない方もいらっしゃったでしょうし、野球を知らないで観た方もいらっしゃるでしょう。ファンだけが対象の映画ではない。この作品をきっかけにファンになってくれればいいな。そんな意図もこの作品には込められているように思えます。だから長々とやる必要はないんじゃないかな。

 さて。ここで表題の件について言及しようと思います。”『FOR REAL』は映画である必要があるのか問題”。是か非か問われたら、私は”是”と答えたい。

 映画の映像ってなんでしょう。『スター・ウォーズ』のようなCGを駆使した壮大な映像。ジャッキー・チェン映画のような迫力ある格闘シーン。もしくは小津安二郎作品のようなローアングルを多用した奥行きのある映像。映画監督ってスクリーンで魅せる意味を問い続けながら撮影に挑んでいるのだと思うのです。

 では、『FOR REAL』はどうでしょうか。「ベンチ裏の様子を映し出し」と先程書きましたが、それはどういうことかというと、鑑賞者が「ベンチ裏にいるような錯覚を覚える映像に仕上がっているという訳でもあるのです。試合内容については、各放送局から映像を借りているようなので、これは固定カメラ。ベンチや客席に関しては手持ちカメラで撮影を行っている。ときには客席から手持ちカメラでボールを追いかける映像もありました。これが、映画だからこそ味わえる臨場感を生み出しているのではないかと私は思うのです。

 本作ではカメラマンと選手がハイタッチをしていたシーンがありました。『ダグアウトの向こう』シリーズも含め『FOR REAL』シリーズ自体、プロスポーツチームの舞台裏を追いかけるドキュメンタリー映画っていう意味合いでは、前代未聞ではあるのですけどね。今までないでしょ。これ。実際のプロチームの試合でカメラマンが選手とハイタッチしているシーンを映し出している映画。メタか。ドキュメンタリーだからメタじゃないのか。いいや、メタでしょ。面倒くさいから、これ、メタって言っちゃってもいいでしょ。

 『FOR REAL』の制作チームって400時間(24000分)の映像を約100分にまとめてるんですよね。いや、もうこれで充分頭が下がります。このシリーズ自体、エポックメイキング的な作品なんですよ。選手たちの精神的に負担がかかる部分もあるかと思いますが、このシリーズは続けていただきたい。多少、偏りが出る演出になってしまうこともあるかもしれない。でも、しょうがないじゃない。原作ものの映画化とかと同じですよ。表現に最大公約数なんてないんだから。好きな人もいれば、嫌いな人も出てきますよ。続けましょう。続けてください。また来年も劇場に観に行きます。何卒、宜しくお願いいたします…だよー。