三浦大輔の引退試合はなぜ泣けるのか問題(『FOR REAL』ネタバレあり)

 映画を見て泣いたのは初めてである。私の頬に一筋の涙が滴れたのは三浦大輔投手の引退試合の場面だった。三浦投手は7回1/3投げて、10失点を喫した。前代未聞である。チームとしては5割がかかった試合。セレモニーも設けて10失点。文字面だけでみたら笑い話である。

 しかし、この試合を見て笑った人間がいただろうか。打たれても打たれても打者に向かう三浦投手の姿を見て、涙を浮かべたベイスターズファンは少なくないはずだ。

 私はこの試合をニコ生で見ていた。泣けなかった。泣いたのは『FOR REAL』を上映した川崎の劇場内だった。なぜ、私は『FOR REAL』の三浦投手で泣いたのだろうか。

 と、私的な話をかっこつけてコラムっぽく切り出してみました。今更な話題ではありますが、三浦さんがベイスターズのアドバイザーに就任したというタイミングで、ふと、引退試合のことを思い出したのです。

 上記の通り、あの引退試合では泣けませんでした。どちらかというと、三浦投手らしい引退試合だなあ。という風に感慨深げに見ていた感じでした。

 さて、もう一度、私が『FOR REAL』での三浦投手に泣いた理由をコラム風に綴ってみます。

 2016年シーズン初め。ルーキーの今永昇太投手は好投を続けていたにも関わらず、勝ち星に恵まれなかった。夏場はベイスターズが誇るクローザーの山康晃投手が絶不調に陥り、投げても投げても連打を浴びていた。

 『FOR REAL』では2人のベンチ裏の姿をも負う。悩む2人に表情を変えずに的確なアドバイスを送ったのは三浦投手だった。今永投手には「大丈夫。そのピッチングをやっていれば勝てるから」。山投手には「お前、その顔で明日球場に来るなよ」。

 このコメントが引退試合の布石になると誰が思っただろうか。引退試合の三浦投手は打たれても打たれても、勝利を信じて打者に立ち向かっていった。キャッチャーミットに向かって投げ込んだ直後に後ろを振り向き、すぐさま本塁のバックアップに向かう。今まで何度見た光景だろう。この姿さえ、もう見ることはできない。

 00年代からつい最近まで。ベイスターズは暗黒時代の中でもがいていた。ファンも選手も死屍累々と倒れていった。私もそのうちの1人である。仕事中に一球速報をチラ見して、3点取られた時点で、そっとウインドウの×印をクリックしていた。その間も三浦投手は打たれて本塁のバックアップにも向かっていたのである。表情を変えずに。

 いつの間にか、私は40という齢を迎えていた。結婚もせずにうだつも上がらない。そんな私はあるとき、一つの言葉を耳にする。

 「でも、やるんだよ」

 これは、根本敬著『因果鉄道の旅』に出てくる言葉だ。『しおさいの里』という、捨て犬を拾ってきて500匹以上の犬を飼っている施設でボランティアで働いてる小汚いおっさんが発したものである。朝から飯も喰わずに犬の世話をして、エサの入っていたタライをわざわざ洗剤を付けて洗いながら、おっさんは説明する。

「いいか、俺はね、毎日1日に2回エサやるけど、エサが終わると全部いちいちこうやって洗ってるんだよ。わざわざこんなの洗剤使ってゴシゴシ擦る必要ないんだよ」

 エサが終わると汚れる。洗う。汚れる。洗う。無駄といえば無駄である。でも、やるのだ。やるんだよ。

 ベイスターズの暗黒時代、私のような素人が見ても戦力は足りなかった。どうしようもなく弱かった。でも、三浦投手はベイスターズのユニフォームを着て、横浜のマウンドに上がっていた。その背中はこう言っていたのだ。

「でも、やるんだよ」

 40を越えて、結婚しようがしまいが、うだつがあがろうがあがるまいが、チームが強かろうが、弱かろうが、やるんだよ。

 ”やる”ことに理由を求めてどうする。そして、涙を流すことにも理由はいらないのである。

 と書いてみました。ちょっとかっこつけてしまって恥ずかしいです。急に話が変わりますが、26日の記事で井納投手が「(先発陣は)僕が引っ張る」と語ってましたね。こう言ってくれるのを待っていました。先発陣の生え抜きでは井納投手が一番引っ張らなければならない立場にあります。声がこもったり、宇宙人的なエピソードがあったりしますが、井納投手なりのチームを引っ張る投手像を作っていってくれればいいなと思います。今すぐ、「三浦投手のようになれ」と言われても誰もできませんから。